Ⅰ. 「高尾の森」の具体的な課題と目標
① 針広混交林への誘導と広葉樹の割合の増加
スギ、ヒノキの一斉林で、かつ壮齢林に偏重しているため、できるだけ早期に針広混交林への誘導を行うことが必要 。
50年生以上の人工林では、間伐材としての木材利用が可能なことから、小面積を分散して選定し、強度の間伐(択伐)を実施して、樹下に広葉樹の植樹を実行する。
特に渓畔、尾根筋などから逐次混交林化を進める。
最終的な目標としては、混生する広葉樹の割合(広葉樹率)が5割に達して、もともとの植生への回帰に近づいた状態を目指す。
② 人工林のギャップの解消と広葉樹林の造成
スギ、ヒノキ人工林で、植林木が集団的に消失し、やぶ状となったいわゆるギャップが若齢の人工林を中心に生じている。
成林を図るための植樹が必要であり、広葉樹の植樹を環境造林として実施。
また、潜在自然植生の再生力も活用して広葉樹林を造成する。
③ つるに巻かれた人工林の解消
樹冠をクズに占拠された森林が、特に30年生以下の人工林に広く見られる。植樹木は樹冠の損傷など形質が悪化しており、早期につる切りを実施する必要がある。
また、劣悪化した個所では侵入している広葉樹との混生、共生を助長。ギャップが生じた箇所では補植を実施。
④ 間伐遅れの解消
緊急に間伐が必要な40年以下の森林が41%(73ha)を占めているが、間伐が行われていない森林がほとんどであり、下層植生の衰退、土壌浸食が憂慮される。
計画的、効率的な保育間伐の実行が必要。計画的に間伐を実施する。
⑤ 歩道の整備、維持
主稜線、ザリクボ登山道を除けば、森林管理のための歩道は、ほぼ消失している。
森林管理の動脈となる幹線、支線の歩道を整備し、維持補修の継続実施が必要。
⑥ 稜線からの展望を確保
稜線の縦走路では、壮齢のスギ、ヒノキの樹冠が夏冬をとおして縦走路を覆うようになり、全路線で展望がきかなくなっている。
ポイントを選定して通景伐採を実施し、周辺林分で間伐、枝打ちなどの森林整備を集中実施。
⑦ マツクイ虫の被害木の駆除
稜線のマツの大径木に2年前から枯損が目立ちはじめている。
伐倒処理を検討。
⑧ 希少動植物、絶滅危惧種の再生
小下沢に生育又は生息する動植物種の多くの種が、その依存する森林環境の大きな変化によって、この50年間に姿を消しており、また現在もその絶滅が危惧されている。
タカオスミレ、カタクリ、ヤマユリ、レンゲショウマ、ギフチョウ、サンショウウオなどの希少種、絶滅危惧種、絶滅種の再生事業について検討する。
そのために必要な生育、生息調査を行うと共に、生育、生息環境の造成、整備手法等についての研究を実施。
Ⅱ. 目標とする森林のすがた(数値目標)
1.期首の現況(2000年4月1日)
樹木 | スギ、ヒノキ 単層林 | スギ、ヒノキ 複層林 | 針広混交 複層林 | 落葉広葉樹林 | 計 |
~20年生 | 1.97 | - | - | - | 1.97 |
20~40 | 70.53 | - | - | 1.17 | 71.70 |
40~60 | 66.05 | - | 2.36 | - | 68.41 |
60~ | 3.14 | 3.04 | 11.75 | 17.82 | 35.75 |
計 | 141.69 | 3.04 | 14.11 | 18.99 | 177.83 |
割合(%) | 79.7 | 1.7 | 7.9 | 10.7 | 100 |
・スギ、ヒノキ単層林が142 ha と80%を占め、そのほとんどが20~60年生までの壮齢林。
・緊急に保育間伐の必要な40年生以下の若い人工林が73 haを占め、間伐はほとんど未実施。
・木材利用が可能な40年生以上の人工林も69ha を占めているが、利用間伐もなされていない。
・広葉樹率(混交林は2分の1換算)は15%程度と少なく、特に上流域では極端に少ない。
・現在の針広混交林は人工造林地に広葉樹が侵入して混交林化したものである。
・針葉樹複層林(スギ、ヒノキの樹下にヒノキ)の造成は、森林管理署で1999年度に1箇所3,04 haが実施されている。
2.10年後のすがた (第2期計画終了時点 2010年4月1日)
樹木 | スギ、ヒノキ 単層林 | スギ、ヒノキ 複層林 | 針広混交 複層林 | 落葉広葉樹林 | 計 |
~20年生 | - | - | - | 6.90 | 6.90 |
20~40 | 11.63 | - | - | - | 11.63 |
40~60 | 117.62 | - | 4.76 | 1.17 | 123.55 |
60~ | 3.14 | 3.04 | 11.75 | 17.82 | 35.75 |
計 | 132.39 | 3.04 | 16.51 | 25.89 | 177.83 |
割合(%) | 74.4 | 1.7 | 9.3 | 14.5 | 100 |
・期首の面積に第1期の実績、第2期の計画を加えて見込んだものである。
・単層林の割合は、80%から74%に減少。
・新たに造成した落葉広葉樹林が6,90ha(全体の4%)を占め、広葉樹率は15%から19%に増加。
・40~60年生の人工林が66%に増加し、60年生以上の高齢の森林が20%を占めるようになっている。
・緊急に間伐が必要な50年生以下のスギ、ヒノキ単層林73ha の森林の45%で間伐実施済み。
3.50年後のすがた(2050年4月1日)――当面の目標
樹木 | スギ、ヒノキ 単層林 | スギ、ヒノキ 複層林 | 針広混交 複層林 | 落葉広葉樹林 | 計 |
~20年生 | - | - | - | - | - |
20~40 | - | - | - | - | - |
40~60 | - | - | - | 6.90 | 6.90 |
60~ | 72.39 | 3.04 | 76.51 | 18.99 | 170.93 |
計 | 72.39 | 3.04 | 76.51 | 25.89 | 177.83 |
割合(%) | 40.7 | 1.7 | 43.0 | 14.6 | 100 |
・毎年1,2haの広葉樹の樹下植樹を続けることを前提に見通したものである。
・新たに造成された混交林の林齢は、上層木の林齢で表示。
・単層林の割合は41%に減少し、広葉樹林、複層林が69%を占める。単層林では全区域で間伐を完了。
・針葉樹と広葉樹の混交林の割合は43%に増加。広葉樹率は36%に増加している。50%を目標とし、これを越えた時点でスギ、ヒノキ複層林の造成などにも着手。
・林齢は、上層木では60年生以上がほとんどを占めるが、下層には幅広い林齢の広葉樹林が生育分布しており、多様化が進んでいる。
・100年生以上の森林が3割に達して、スギ、ヒノキの高齢木に広葉樹が混じる巨樹の森に近づきつつある。